「隠岐諸島」旅 その7(海士町) 宇受賀命神社に心奪われ、先生に宇受賀の船小屋に案内してもらう
2016年の隠岐の旅、第七回です。ランチ難民をなんとか回避して憧れの岩牡蠣春香と再会。午後は島の北側、宇受賀へと向かったのでした。
宇受賀命神社の風景が本当にいい
島の北側の宇受賀地区にある「宇受賀命神社(うづかみことじんじゃ)」に到着すると、すぐにその景色に目を奪われます。
神社は鳥居の先の参道の向こう、鎮守の森を背にして佇んでいます。参道の左右には、水を張って田植えを待つ田んぼ。実にいいロケーションです。
「苗が植えられたあと、青々とした稲が伸びるころ、穂が実って金色に輝くころ、違う景色が見られそう・・・」
思わず言葉が出ます。四季の移り変わりをずっと見ていきたい、そんな場所です。
参道脇には花も咲いていて、思わず写真を何枚も撮ってしまうほど絵になります。
「宇受賀命(うずかのみこと)」は、この宇受賀地区の守護神として祀られてきて、他の地にはいない神だそうです。確かに聞いたことがありません。また創建の時代も不明だそうです。現在の社殿は火事により焼失後、1917年(大正6)に再建されたもので屋根は銅板葺きですが、1962年(昭和37)までは茅葺きだったそうです。
「延喜式」では、名神大社に列せられた隠岐国4大社のひとつで朝廷の崇敬も篤かったと言われています。
ちなみに、延喜式神名帳に載っている神社2861社のうち、名神大社の列せられているのは226社。そのうち4社が隠岐にあるのは、この地が地理的・祭祀的に重要であったことを推し量るに足ります。残り3社は、島後の伊勢命神社と水若酢神社、西ノ島の由良比女神社です。
拝殿と本殿も立派ですが、今は人の気配がありません。社務所もないので通常は無人なのでしょう。後で知ったことですが、御朱印などは隠岐神社の社務所でいただくことが可能だそうです。
本殿が拝殿より一段高いところに置かれているのはちょっと珍しいかもしれません。
掲載の写真は、あまりにこの場所が気に入ってしまったので、翌日天気のいい時に再度訪れて写真を取り直したものです。
島の方のお茶に混ぜてもらう
宇受賀命神社の一の鳥居と道を挟んで逆側には、宮の原公園という広場と休憩所があります。ちょっとトイレを借りようとそばまで行ってみると、さっきまで広場でグラウンドゴルフを楽しんでいた年配の方々が休憩していました。声をかけてみると「寄っていきない」とみんな手招きしてきます。
せっかくなので休憩の輪に混ざると、コーヒーやお菓子をごちそうになってしまいました。
「どこから来たの? フェリーで来たって?」「船で4時間は長かったろう」と口々に聞いてきます。
そこの宇受賀命神社は本当に素晴らしい場所にありますね、というと、
「神社は稲穂が実るころが一番綺麗だよ。7月の祭りのころもいい」と教えてくれました。
話の流れで宿はかたえ荘さんだと言うと、「かたえ荘の女将さんはここ宇受賀の出身だ」と教えてくれました。なんだかそういう情報は嬉しい。
「そういえば、ここに来るまでに結構な田んぼを見ましたけど、どこも遊んでる田んぼはあまりないですね」素朴な疑問を投げかけてみました。
「島中の田んぼを見てくれる若い人のグループがあって、あちこちの田んぼを手伝ってくれたり面倒を見てくれたりしてるんだよ」とのこと。そういえば海士町の地域おこしの話で聞いたことがあります。宇受賀命神社の周りに広がるこの田んぼも、ずっと見守ってきた年配の方に加え、そんな若い人たちのサポートで続けられているのでしょう。あちこちで荒れた田んぼを見かけて切ない思いを感じてきた身としては、少しだけ胸が熱くなるお話しでした。
加えて、年配の方々がなんだか楽しそうなのも印象的でした。
「先生」に宇受賀の船小屋群へ案内してもらう
「この島で、島の人しか知らないような景色ってありますか?」とふわっとした質問をしたのですが、結構みんな困っていました。そりゃそうですよね。普段生活していて当たり前に見ている風景のどこが隠れスポットかなんてわかりません。
「先生、案内して上げたら?」と誰ともなく言い出します。
「じゃあこのあとちょっとその辺連れて行ってやろう」と声を上げてくれたのが、みんなから「先生」と呼ばれていた御年80歳のUさんでした。現役のころは隠岐の島々の中学校で実際に教鞭を執っていたことから、先生と呼ばれているようでした。
早速、先生の車の後ろについて行きます。最初は宇受賀命神社のすぐ北にある宇受賀港へ。
「島後にもたくさんの船小屋が残ってるけど、ここ宇受賀の船小屋は当時の場所、そのままに残ってるんだよ」
島後の都万の船小屋群も壮観でしたが、宇受賀の船小屋は建てられた当初からずっとこの場所で今も使われているのでしょう、素朴な佇まいがとてもよかった。
宇受賀命神社と同じくとても気に入ったので、翌日天気がいい昼間に再訪して改めて撮影したのが上記の写真たち。
三郎岩を陸から見られるスポット
宇受賀港の船小屋を見た後は、少し東にある入り江へ。
「この道はこの辺の人間しか知らん道で、個人が舗装したんだよ」
人が二人並んで歩ける程度の小道をしばらく歩くと、磯が広がる海岸に出ます。沖を見れば、三つ綺麗に並んだ岩が見えます。
「あれは三郎岩と言って、普通はあまんぼう(遊覧船)に乗らないと三つ綺麗に並んだ様子は見えないんだが、この海岸からなら見られる。ここは夏場は島の子どもたちが海水浴にも来る」
明日乗ろうと思ってたあまんぼうからしか見えないはずの三郎岩を、早速見てしまいました。島の人しか知らない景色、あるじゃないですか!
海士町に来る前には知らなかった宇受賀の地は、神社と船小屋、秘密のスポット、それに島の人の親切に触れられて、この旅でも指折りの心に残る場所となったのでした。(続きます)
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