「五島列島」旅 その32(小値賀島) 島で100年続く活版印刷「晋弘舎活版印刷所」
夏の旅先がようやく決まって一安心です。この前GWに行ってきたばかりだと思っていたのに時間が経つのは早いものです。どうも、いづやん(@izuyan)です。
五島列島旅の第三十二回をお送りします。トムさんの案内で小値賀島をぐるっと一周して戻ってきました。そこで、はたと大事なことを思い出します。
16時の約束を思い出す
黒島でトムさんの話を聞いていた時にふと思い出します。
「このあと晋弘舎さんに見学に行く予約をしていたんだった!」
時計を見ると、すでに16時半。約束の時間は16時です。トムさんの案内が面白くてつい時間を忘れていたのです。一度宿に戻ってもらい、慌てて「晋弘舎」さんに向かいます。
宿から「晋弘舎」さんは歩いてすぐです。昔ながらの建物の戸を開けて、約束の時間に遅れたことを詫びて見学ができるか聞きます。
「大丈夫ですよ、どうぞ」
応対してくれたのは、「晋弘舎活版印刷所」四代目の横山桃子さん。そう、ここは今や全国でもほとんど見かけなくなった「活版印刷所」なのです。僕自身も「活版印刷所」、そして本当の「活字」を見るのは初めてかもしれません。
初めて見る活版印刷に驚く
活版印刷とは何か、どう版下を組むのか、サンプルを見せてもらいながら説明を聞かせてもらいました。
文字だけではなく隙間をどう組むかも考えなくてはいけないのが大変なのだそう。そのためのものも用意されています。さながらパズルのようです。もちろん、罫線や点線なども用意されています。素材は鉛。
複雑な模様やイラストは樹脂版を作り対応します。
作業机の上に置かれたものに目を向けると、昨日野崎島に行く時に乗った町営船「はまゆう」の切符がありました。ここで刷られたものだそうです。乗るときは気が付きませんでしたが、こうやって見ると確かに活字の素朴な印刷なのがわかります。
こちらが活字で組んだ切符の版下。
仕事場の奥になる大きな活版の機械も見せてもらいつつ、そばで黙々と作業していた三代目であるお父さんからも少し説明を聞かせてもらいました。
「書体は明朝だと一種のみ、あとはゴシック。ほかに正楷書体もあるが、デジタルのようにたくさんはないんだよ」とのこと。
それでも壁を埋め尽くさんばかりの活字に圧倒されます。どこにどの字があるかを把握するだけでも何年もかかりそうです。
活版印刷をやりたいがために、Uターンで小値賀島に戻る
桃子さんはこの仕事に就いて4年(旅当時)。
「まだこの大きい方の機械には触らせてもらえないんです。今は名刺の仕事をやっていて。さっき300枚刷ったばかりなので結構腕が張っています(笑)」と笑いながら、入り口付近にあった名刺を刷る機械を見せてもらいました。
上にインクを塗る皿があり、左の取っ手を引くと皿が周り、下からローラーが上がってくる。皿のインクをローラーが取り、活版に塗り、名刺の紙に押し当てる。1枚刷るのにも結構な力が必要です。
機械に1枚1枚、名刺用の紙をセットして手でレバーを動かして刷り上げます。
「1枚1枚刷られたものの、それぞれのかすれとか風合いを楽しんでもらえたらと思ってます」
もちろんそれだけではなくて、活版印刷の文化の維持・拡大もしたいと語ります。
そもそも桃子さんは都内の大学に進学し、就職もしたそうですが、大学のゼミで訪れた印刷所で活版印刷機を見たのをきっかけに、自分の家の活版印刷を見直す機会があったそうです。そこから小値賀島に戻って活版印刷の文化を継ぎたいと考えるようなったといいます。
時間にして1時間にも満たなかったですが、桃子さんが活版印刷と小値賀島が好きなことが伝わってきて、実に心地よかったです。
「今はおかげさまで引き合いが増えて、名刺のご注文もたくさんいただくようになりました」
サンプルとして今まで刷った名刺を見せてもらいましたが、どれも活字の面白さ、風合いが、受け取った人に伝わる、そんなよさにあふれていました。
ブログに書いてもいいですか?と聞くと、「ぜひ書いて小値賀島と晋弘舎の活版印刷を広めてください」とのこと。
「でも、記事に載るのはありがたいんですが、見学を希望される方は、前もってご連絡をいただけるとうれしいです。仕事でドタバタしている時もあるので・・・」
あくまで「晋弘舎活版印刷所」は、仕事場。ただ、活版印刷の文化にも触れて欲しいということで見学可、としているということを忘れないようにしたいものです。僕も遅刻してきて偉そうなことは言えませんが・・・(笑)
お父さん、桃子さんにお礼を言って、仕事場を後にします。
小さな島に100年続く活版印刷の伝統と歴史。また何年か経った後で、何が変わって何が受け継がれているのか、またお話を伺いに来たい、そう思わせる印刷所でした。(続きます)
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